元  ち  ゃ  ん  の  山  紀  行
大 日 岳 (2,501㍍)
<富山県上市町、立山町>平成15年07月20日



 今日は単独行が許されていたが、就職してからはじめて帰省している娘の事や、お天気の事で最後まで目的地を決めれず悩んでいた。
 雨は上がっていたが、その不安はぬぐいきれず、「大日岳」と「大猫山」の二案を持って、国道8号線を富山に向かって走った。
 常願寺川を渡っても山並みには厚い雲が掛かっており、とても剱岳の展望を期待出来る状態ではなかった。
 それならば、距離は長いが、比較的なだらかに思える大日岳を選んだ。立山駅に向かう車を尻目に、藤橋を渡らず称名へ向かう。称名駐車場で準備をしていると、“よおっー”と「あらちゃん」から声を掛けられた。


大日平のワタスゲ
大日平のチングルマ
 何処へ行くの?
  大日・・・・・
 お供しようかな!

 話がまとまり一緒に出掛ける事になる。
 「あらちゃん」とは、昨年2/11に「赤谷ノ頭」に同行しただけだが、それ以来HPを相互リンクしているし、カシミールの事でご教授願った事もあり、長いお付き合いをしているような錯覚さえおきてしまう。

 今日は曇りがちのお天気なのだが、「海の日」を挟んだ3連休の方々も多いようで、意外なほどに称名滝見物や大日岳登山者があった。今日は「あらちゃん」が同行という事でどうしても賑やかになり、まず登山口で、称名滝に向かう団体さんと言葉を交わし、シャッターの切り合いが行われた。
 黙々と歩く。いやお喋りしながらも、足運びは疎かにならず淡々と歩く。猿ヶ馬場で先人が休んでいたが、汗を拭いただけで、また足を前に出す。
 「牛首」を通り過ぎ、大日平の木道に差し掛かっても、二人の足も口も一向に衰えない。チングルマが咲いていた。もう稚児車になっているものと、これから盛りになるものとの二極化進んでいた。これから向かう大日岳や立山から薬師岳に連なる山々は、ガスに隠れて見えぬが、大日平と対岸の弥陀ヶ原は、いつものように素晴らしい高原の姿を見せてくれている。
 大日平山荘に着いてようやく一服である。汗を拭き水を一口飲んでまた出発だが、そういえば今朝から何も食べていない事に気付き、昨夜の夕飯の残り物を慌てて口に放り込んだ。

<登山道で>
 尚も続く木道を歩きながら、チングルマ、ワタスゲ、ツマトリソウ、、イワイチョウ、ニッコウキスゲなどの写真を撮る。暫しペースが落ちるが、また同じように歩き続ける。
 風衝地帯から樹木が立ち始めると、キヌガサソウ、エンレイソウ、シラネアオイ、そしてムラサキヤシオが現れる。群落とは言えなくとも大いに目を楽しませてくれる。40~50分ほどで水場(標高1975m~80m)に着く。この上で同じ沢を何回となく渡るので飲めるような場所ではないが、水の流れは心を豊かにしてくれる。またタオルを濡らしたり、手足をひんやりした水につけるにはいい所である。

<大日岳頂上であらちゃんと>
 先人を追い抜いたり、室堂方面から大日連山を縦走して下ってくる人達とすれ違ったり、平日歩きの多い私にしてみれば、結構賑やかである。鞍部までもう一息! もう少し!などと力付けるには、今の高度計は実に都合がいい。以前持ち合わせていた高度計には、いつも騙されていたが、JPSに備わっている高度計の誤差は許容範囲で頼もしい。しかし、そのJPSの機能は未だに使い切っていない。
 大日岳と大日小屋の鞍部に辿り着いたが、期待はしていなかったものの剣岳方面は、いや全方面がガスで真っ白である。そして、頂上沿っての東~北側には残雪がびっしりとあった。

 「あらちゃん」は元気そのもの! ここで休まず頂上へ行ってしまう事を勧める。10~15分程、どの踏み跡を辿っても2501mの大日岳の頂上に着く。
 このところ、大日岳頂上から剱岳を仰いだ事がない。夏の日帰りだと、どうしても頂きに立つのがお昼頃になってしまい上昇気流のためガスに覆われてしまうのである。増してや、お天気のあまり良くない時に登って来るのだから、しょうがないところか!
 このお天気でも次から次と、入れ替わり立ち替わり登山者がやって来る。単独もあれば、賑やかな数人、また職場のグループであろうか10数人のパーティーなど、でも、皆早々に引き上げて行く。
 「あらちゃん」が缶ビールの栓を脱いだ。ゴクゴクと喉越しに冷たい液体が流れていくのがわかる。それも上等のエビスビールである。さすが「あらちゃん」はブルジョアである。最近の私は、単独行の時は、ビール(発泡酒)を持参せぬようにしているため、それを知った「あらちゃん」は、気兼ねそうに、しかし美味しく楽しんでいたようである。
 頂上に着いて30分ほど経ってから雨が降り出した。“引き上げようか。”と店開きした物をザックに放り込んで下り始めたが、益々強くなる雨に、たまらず雨具を着る事にした。鞍部に戻って、今度はカメラが気になりナイロンの袋に入れ直した。

 酷い雨だね!などと言いながら、足早に下って行くと、幾つかのパーティーは道を譲ってくれた。トントンと降りて行った所で「あっー」と声を上げてしまった。登りで最後に渡った沢が濁流となって行く手を阻んでいるのである。凄い勢いで水が流れている。立ち止まって水位を下がるのを待つしかなかったが、すぐ大日小屋に戻る事とビバークをする事が頭の中を過ぎってしまった。


濁流を渡る① 濁流を渡る② 濁流を渡る③ 濁流を渡る④

 どう渡るかを考えながら下を見ると、なにやら何ヶ所もこの濁流で足止めを食っているようであった。その模様がどのようなものなのか分からないまま、またガスに覆われてしまう。
 時々ガスの切れ間から、赤や青の雨具姿の固まりが動かず止まっているから、何か起きている事には間違いなかった。
 どれくらい時間が経ったか分からないが、男女4パーティーが降りて来た。停滞している事を告げたが、少し水位が下がったような感じになったので、強引に沢を渡って行った。私達も後に続いたが、そこでは20数人が足止めを食っていた。
 今度は、先程よりチョット急流で、渡った先の道が流れの中にあり、樹木に繋がって行かなければならにいようである。先人が細引きを張って誘導するが、後に続く人がいないようであった。おまけに待機する所が、その流れに沿って残雪があり、悪い事にその中かなり空洞化している。全員がその残雪に乗らないように注意が下されていた。
 過日、文研(文部省登山研修所)でザイルワークを勉強してきた「あらちゃん」が、“ ザイルを持参しておれば良い所を見せれたのに!”と盛んに悔やんでいた。前回まで必ずザックの中に入っていたそうなのだが、今日は何処か違う所を狙っていたからか用意していなかったようだ。
 木々につかまり、川中の男性の手を借り、対岸でも逞しい男性が引き上げてくれて、次々とトラブルなく渡って行った。その途中、後続の中年女性が、雪渓に足を滑らせ、頭から「あらちゃん」の横に落ちて来て止まった。「あらちゃん」の強力に持ち上げられたその女性は、顔は真っ黒になったが、幸い怪我はなかったようだで、胸を撫で下ろした。


濁流を渡る⑤ 登山道も川となる ここまで来ると安堵の溜息が・・・ 大日平へ
 5~10分も歩いたであろうか。またまた流れが行く手を阻んでいた。その頃は雨も大分小降りになり、沢を渡るのも3回目となっていたので、皆心にはゆとりが出来、顔には緊張感がなかった。
 私もカメラを取り出し、何枚もシャッターを切った。緊急の時だけに、でしゃばった撮り方は出来なかったが、その雰囲気だけは撮れた感じだった。渡った途端に、もっと酷い所の写真を撮っておればの欲も出たが、そんな雰囲気でもなかったし、凄い雨にカメラが濡れないようにする事の方に気が回ってしまっていた。
 豪雨の余韻は、登山道を川にしてしまい、その中をジャブジャブ歩くしかなかった。大日平の木道に差し掛かった所から、雨が上がって、雨の洗われた大日平の緑が美しく浮かび上がった。前日室堂泊で大日連山を縦走してきた埼玉の女性は、北アも初めて、こんな経験も初めてなどと興奮していた。その女性達3人は、優雅にも大日平山荘でもう一泊する様子だった。


雨が降る前の沢 雨が降ってからの沢

 我々も大日山荘前の庇で、また降り出した雨を凌ぎながら一服した。降ったり止んだりを繰り返していたが、今歩いてきた大日岳の稜線が、今日始めて姿を現した。日頃何でもないのに自然が牙をむけば、とても太刀打ち出来ない事を何度も経験している。
 昭和44年に県下を襲った集中豪雨の恐ろしさを、今でも鮮明に覚えている。富山地方鉄道が横江から不通になり、極楽坂を歩いたり、鉄橋の上を歩いたりした。また馬場島からの白萩川も様相を一変させてしまったのである。 それも遠い昔の話。・・・・・・・

 高度が下がって、雨具を着ていると、まるでサウナにでも入っているように、汗だくになる。雨具を脱ぐと、また雨が降るなどと笑いながら、山荘を後にする。最も脱ぐのが面倒くさいからでもあったが・・・・
 

黙々と大日平を行く① 黙々と大日平を行く② 大日岳の稜線が見えて来た 雨のため水量が多いハンノキ滝(左)
 
 右手に大日岳を見ながら、雄大な大日平の写真を取り捲った。弥陀ヶ原に目を移し、
バスからこちらに向かって手を振っている。と言うと、すかさず、
「あらちゃん」が、石澤が乗っている。などと切返してくる。
 牛首を過ぎると、また大粒の雨が降って来て、雨具を着ていない人を見つけては、
“ 着ていないから雨が降るのだ!”とわけの分からぬ事を連発していた。
 泣きべそを掻いている少年を追い抜く時、その母親が、先程の濁流に流されそうになったのだという。それは怖かったろうと同情の念を示したが、その少年には伝わらなかった。
この雨で、ハンノキ滝の水量が凄かった。隠れて見えぬ称名滝と間違えるくらいであった。登山口から車に戻るまでの舗装道路で、お互い疲れた疲れたの連発!それにしても、あらちゃんとよく喋ったものだ。




★★★コースタイム★★★
高岡6:30=称名P(7:50~8:10)=登山口8:20=猿ヶ馬場9:05=大日平山荘(10:10~20)=水場(11:05~15)=鞍部12:30=大日岳頂上(12:40~13:15)=第一の停滞(14:00~15)第二の停滞(14:20~45)第三の停滞(14:50~55)大日平山荘(15:40~55)=登山口17:15=称名P(17:30~45)=高岡19:25

★☆★単独行
           =登山口で「あらちゃん」と出会い、最後までご一緒願う。=