元  ち  ゃ  ん  の  山  紀  行
初 雪 山 (1,610㍍)
<富山県 朝日町>
平成14年03月17日




 不覚にも大切な山行に朝寝坊をしてしまった。7時発では、とても山頂に届くはずもなく、諦めなければいけないのだが、「初雪山」だけは、思ったからには、どうしても行きたい「山」で、すぐ車に飛び乗った。幸いにも準備はしてあり、起きてから出発まで時間は掛らなかった。何時もと違う行動に、「山ノ神」は、何か可笑しいと疑ったのに違いない。きっと恋しい人にでも、逢いに行くように思えただろう。それもそのはず、「初雪山」が大好きなのである。まずは名前が素適である。そして、誰でもが登れない山、また「大地山」や「黒菱山」などから望む山容は、私の心を揺るがすのである。「早くおいでよ!」と呼んでいるように思えるから不思議なのである。

川黒谷付近の取り付き地点川黒谷付近の大平川上流川黒谷付近の大平川左岸の林道大平川左岸から初雪山を仰ぐ

  8号線を突っ走り、「滑川」から高速に乗り「朝日」まで・・・・・・・コンビニで菓子パンを買い、新潟県境に流れる境川を遡り「大平」へ1時間余で着いた。境川第二発電所ゲート付近で車がストップである。先に一台の車が止まっており、また残雪のある手前に、登山かどうかはわからないが二台の車が止まっていた。結果的には、7~8分程先の大平トンネルまで、車が入れたかもしれないが、倒木や大きな石が散乱していて、安全のためにもゲートの所に駐車したのが正解のようであった。

  1分でも早く出発し、必需品以外の物を少しでも減らしたかったので、今日は、望遠レンズと三脚を外した。もっとも、この時間だから炊事用具も諦めていた。気掛かりな事は、8号線の気温表示が、早朝なのに16℃を示していた事と、折からの強風であった。過去にも、林道歩行でデブリを渡るのに崩落で苦労した事があったからである。

  まずは、屈折している大平トンネルが、真っ暗で困惑する。ストックを側壁に付け、等間隔を保ち、もう一本のストックで、路面に障害物がないかを探しながらの歩行となった。やがて光が見えて来たと思うと、トンネルの出口に、デブリが覆い被さった感じになっている。このデブリは、さほどの怖さはなく難なく渡る事が出来る。やがてスノーシェードを潜るが、数年前までは、この場所(以前は、スノーシェードがなかった。)のデブリが一番怖く、橋を渡って右岸に行き、渡渉して、また左岸に戻ったものである。歩き始めから30分余で、境川第三発電所に達し、ぐるっと巻き上げた所の短いトンネルを潜った所から、右斜面上部からの崩落を注意しながら、林道の雪の傾斜も気にしながらの歩行となる。小さなトンネルと小さな橋を過ぎ、右手の沢を過ぎた頃に、3人の釣人を見かけた。その辺は、雪の状態が非常に悪く、川への転落に気を付けながら、歩かなければいけなかった。雪面の足跡が一つになった。

  やがて、川黒谷周辺の取付き地点に来ると、カンジキを装着する作業に踏み固められた所があり、その地点から、杉林に向かって斜めに踏み跡が続いていた。私は、その地点より更に100㍍程林道を進み、取入口に続く作業道を選択しようとしたが、雪に覆われて、らしきものに思えたが、確認出来ずじまいに、その雪の付きが不安定な、急斜面に取付いた。このルートで合っているのかと不安な気持と、先のトレースを辿ったほうが良かったのではなかったかと思いながら、時々雪の間から顔を出す枝に繋がったり、杉の木の根に脚をかけたりして、今更また下って登り直しなどは出来ないと思いながら高度を稼いだ。登りきった所が、見覚えのある枝打ちされた杉林である。そこから、雪の付いた杉の雪斜面を南に向かって登るわけだが、その杉林に入らず、東に(谷に沿って)7~8分進んだら、杉に赤ペンキが、何ヶ所も施してある。

  ここから進路を必然と南に取る。取水口へのために刈り上げられた作業道らしいが、雪のある今は、痩せた尾根になっている。登りきったところで、遅まきながら、真っ黒な顔なれど、日焼け止めクリームを塗るが、無造作に塗るものだから、後から写真を見て、白い顔を見てビックリする事がある。今日は、どうも登山者も少ないから、「ま~あいいや!」と少し緩やかになった広い尾根になった所で、先程の取付きからのものであろうか、トレースに合流した。 

ゆったりした尾根から
大斜面を眺める
1000~1100㍍付近から、
頂上直下の大斜面を見る
白鳥山犬ヶ岳

   トレースがあれば楽である。少し沈むとはいえ、ルートファインディングは、トレースが間違っていないか時々確認するだけで済むわけだから、時間のない今日の私には、大助かりであった。

  杉からナラ、クヌギの雑木になったと思ったら、何処からともなく、スキーのトレースが現れる。時々、そのトレースが交わりまた離れている。カンジキ跡の上に、スキーの跡が重なっている。“誰だろう!”“何人なんだろう!”と思いながらトレースに、自分はカンジキを付けぬままで、広い尾根を先に急ぐ。732㍍のピークを確認もせず、ピッチをあげる。汗を拭いながら後を振り返ると、白鳥山が大きく見える。その栂海の稜線を、右に目を向ければ、特徴ある犬ヶ岳ピークが望める。

  なおも広い尾根が続く。ブナが現れて何となく気持が落ち着くような気がする。初雪山の特徴の一つである頂上直下の大斜面が目に付くようになり、雪面がクラストしているのがわかる。

白鳥山 雑木の後方が大斜面 大斜面直下から犬ヶ岳 大斜面直下

   800㍍付近から尾根が益々広くなるが、900㍍付近からは、しっかりした尾根になり、おおよそ間違う事はない。山頂直下の大斜面が、ドンドン近づいて来て、クラストしている斜面が氷のように光って見える。心配していた風が強くなって来て、帽子が飛ばされそうになり、必死に抑えなければならい状態になって来る。でも、黙々と歩く。今日は、カメラの三脚もなく、自分を撮る事が出来ない事もあって、時折カメラを出すが、そんなに時間を費やさない。あまりあてにならない高度計が、1250㍍を指してた頃、尾根の一寸下がった風当たりの少ない所に男女4名のパーティーが、食事をしていた。

 
元ちゃん  「こんにちは。」
パーティー 「一人ですか?」
元ちゃん  「もう降りたのですか?」
パーティー 「風が凄くて、吹き飛ばされそうなので、退却ですわ。」
パーティー 「一緒に、食事しませんか?」
元ちゃん  「もう少しだけ上に行って来ます。」
パーティー 「何処の会ですか?」
元ちゃん  「無所属ですよ!」


  高岡ハイキングクラブの代表を含めた4名のパーティーで、一杯飲みながら、「山談議」をしたいところだったが、頂きを極めたい一心で、先を急いだ。でも、時刻は12時半近くで、この気象条件と残り時間を考えると、ちょっと無理ではないかと思うようになっていた。
シャッターを頼んだら、
綺麗な女性と撮ってくださった

  広い斜面の風当たりは益々強くなり、ピッケルを用意した。クラストした雪面に、トレースは、雪煙と共に今にも消えそうであった。山スキーの青年が、上から滑り込んで来た。
「上は凄い風ですよ。諦めました。行かれるんですか? お気を付けて。」の言葉を残して去っていった。
「もう一寸。」が、一番危険である事を、重々承知しているつもりだが、“もう一歩、もう1㍍” の気持がどうしても前に行かせてしまうが、恐怖との戦いでもあった。大好きな初雪山であっても、今朝の遅い出発や、荒れた気象で、何かトラブルが発生した時に、悔いる事が大であると決断し、寒い中、何枚かの写真を撮り、またこの強風下の中で、味あう事もないだろうが、今日の自分に乾杯という事で、冷たい一本の缶ビール(発泡酒)を開けた束の間を酔いしれた。雪中に挿したピッケルに、もたれるように飲んだ姿を、今思い出してみても、可笑しな姿に思えて仕方がない。
一緒に下山した
高岡ハイキングクラブ4名の方々

  5分間の滞在後、一気に斜面を駆け降りて、先程のグループのいた所に戻ったが、もう姿はなかった。特別急いだわけでもないが、30分程で、スノーボードを楽しんでいると言う別行動のリーダーを除く3名の方々と合流し、行動を同じにした。やや西に振れている行動を東方向に修正し、脆い急斜面を降りて林道に出た。ここで、今日始めて自分の写真のシャッターを切ってもらおうとしたら、サービスとして、可愛い女性が私と一緒にカメラに納まって下さった。車までの長い雪の林道は、疲れが出てしまったのか、何時の間にか、バラバラの行動になってしまった。   




    ★★★ コースタイム ★★★
高岡7:00=滑川7:38=朝日7:55=境川第二発電所ゲート(8:15~30)=スノーシェード8:45=境川第三発電所上のトンネル9:05=小さなトンネル9:15=小さな橋9:20=沢9:35=川黒谷取付き9:40=杉林(10:00~05)=進路南に尾根10:12=日焼止め塗布(10:30~35)=トレース合流10:40=標高900㍍11:24=標高1070㍍11:50=標高1300㍍12:30=標高1370㍍退却地点(12:45~50)=標高1250㍍13:00=川黒谷出合13:55=車デボ地点(15:10~30)=高岡17:15

       ■■ 単独行