元  ち  ゃ  ん  の  山  紀  行
大 猫 山 (2,070㍍)
<富山県魚津市、上市町>平成13年10月15日




<大 猫 山 か ら 剱 岳>
<大猫山から五竜岳と鹿島槍ヶ岳>



 登り損ねた山に執着し、ルートを換えて夏道に挑戦したが、大猫山からの大展望を望む私に、全くと言って良いほど応えてくれなかった。
 まるで、剱岳と東芦見尾根との間に大きな屏風を立てたように、また、あなたなんかに「この美しい山肌を、そう簡単に見せられない、何度も通っておいで!」と言っている様にも思えた。


剱岳の上部は、雪でもう白くなっていた木々の間から、萌える細蔵山からの
延長線上の山々望む
1,500㍍のピークで紅葉真っ盛り


 下界は晴れているのに!と思いつつ試練とばかり自分に言い聞かせていた。私が登る日には、不思議と人がいなく、私だけの静かな山となっていた。
 私を、あざ笑うこの冷たい山でも、ハクサンコザクラ、チングルマの群落が、所狭しと咲き乱れ、私の沈んだ心を慰めてくれたし、山歴や目の当たりに見る脚力の凄さに、唖然としてしまうほどの別世界を知る登山家と出会った事も、新たな闘志となって我心を盛んに掻き立てた。
1500㍍のピークで

 7/23(月)8/19(日)に次いで、9/16(日)も晴れていたのに、またしても、その望みをかなえる事が出来なかった。今回は、「よく飽きもせず!」と「山ノ神」のイヤミをバネとして、今年最後のチャンスとばかり、「大猫山」に臨んだ。
 幸いお天気も味方してくれそうで、朝方は結構冷え込んだ。伊折橋を渡る時、未だ明けぬ空に、剱岳のシュルエットが、黒く浮かび上がっていた。急げとばかりに、馬場島から白萩川沿いに車を走らせ、ブナクラ谷取水口手前の駐車場に駆け込んだ。
 夜が明けたばかりの冷たい空気に震えながら、準備をしていると、一台のワゴン車が上がってきた。数人が車から降りて来たので、一声掛けたが返事がない。水の音が邪魔して、聞こえなかったのだろうと自分に言い聞かせて、大猫山に一歩を踏み入れた。
 始めから急登である。30分も歩くと、1300㍍付近で剱岳が見えてくる。上部は雪で白くなって見える。以前の3回の登高では、全くと言っていいほど、剱岳を見る事が出来なかったから、後々の事も考えてシャッターを切った。きつい登りにロープが施してある。


大猫平から大猫山頂上を望む大猫平の草紅葉大猫平からの展望山頂への途中から大猫平を振り返る

 1400㍍のピークは、特別に尖っているわけでもなく、言われてみて始めて気付くくらいの所だが、最初のカメラポイントかもしれない。一寸下り、右手に剱岳を見ながら、そして、杉の木の根を気にしながら、白い岩がゴロゴロした所を再び登って行く。進行方向の左の山並みに、日が当たり一段と進んだ紅葉が鮮やかである。そして反対の右側は、大窓と小窓の間からお日様が上がり、その強い光は、今日の第一目的である「剱岳の写真」を撮るには、無情の逆光である。剱岳全体の蒼い岩肌を、なおも暗くし、岩峰を鋭く魅力的にしてはくれるが、またしても、剱岳を撮らしてくれないのかと思ってしまった。
 1500㍍のピークでも、残念ながら同じ逆光が続き、ロープに身体を任せながら一枚岩を下った。1700㍍位で我慢が出来ず、樹木越しにシャッターを切った。
 早く大猫平もしくは、頂上に登って、シャッターチャンスを待とうという心と、お天気は何時どうなるか分からないから、一寸でもチャンスがあったら、撮ってしまおうという心の格闘である。どちらにしても、太陽が頭の上に来る頃に、お天気がどうかという問題である。
 北に向かって、延びているこの尾根に、長いロープが施されており、やがて、岩沿いに左へトラバースした後、木の根に縛り付けてあるロープを頼りに、大きな岩を階段状に登って行く。

4度目で念願がかない、
ようやく剱岳を仰ぐ事が出来た
頂上から猫又山を望む頂上から釜谷山を望む剱岳をバックに

 痩せた尾根は暫く続き、三脚などの長い荷は、樹木と岩に挟まれたりして通り難く、また足場のきっかけが無く難儀する事ある。何時の間にか、左右に木々がなくなってくると、ロープも終わりである。このあたりから、立派な早月尾根を抱えた、勇壮な剱岳の全容が見え始める。
 1800㍍近くのところで、大きなリックの担いだ男性と出会う。カメラの機材と幕営用具を担いでいるからか、かなりバテ気味の様子で、また、つま先が痛いのか、膝の都合が悪いのか分からないが、バックして下りていた。
 1800㍍を超えると、相変わらずの逆光ながら、剱岳が益々良くなってくる。大日岳や浄土山も穏やかな山容を浮かびあげてくる。
 1850㍍の大猫平は、一面霜に被われて白くなっており、小さな池塘には、氷が張っていた。大猫平では、青い小さなテントで、水戸の中年男性が独りで泊まったらしく、今朝の厳しい冷え込みを語ってくれた。
 また、昨日の日曜日は、20人くらいの登山者が登って来たようで、下の駐車場には、赤谷山や猫又山行きの登山者も結構いたらしく、車を止める事が出来ず、かなり手前から歩いた事も付け加えてくれた。今朝の出発時に入ってきたワゴン車の一行は、どうもこの大猫山でなく、赤谷山か猫又山方面に出掛けたらしく、今日の山行で出会った人も、先の大きな荷物を担いだ男性と、この水戸の男性の二人だけであった。
 未だ9時過ぎではあったが、唐松岳や五竜岳が見えてくる雰囲気になってくると、メチャメチャにシャッターを切った。雑木と笹が混在した中を急登し、草地になった所に、大猫平の美しい草紅葉が目に入ってくる。
頂上から五竜岳を望む

 過去は、三度共ガスの切れ間に、ほんの僅か頂上近くから、大猫平を眺めただけで、その全容を掌握していなかった。左に細蔵山の連なるピークが見えてくると、赤谷山の左に鹿島槍ヶ岳が顔を出し、剱岳の右側には、剱御前岳、立山、浄土山、大日岳連山が左右前後の定位置に連ねてくる。
 展望の効いた笹道から、下りた沢(小さな谷)を左に進路をとり1分程行き、赤い布に導かれて右の斜面を登り、シラビソの中を抜けると、頂上草原の入口である。
 頂上のような所で、ザックを降ろし、今までのうっぷんを晴らすかのように、シャッターを切った。まずは剱岳、そしてまた剱岳である。釜谷山も猫又山もいい。鹿島槍ヶ岳も五竜岳もいい。こうなると小窓、大窓、赤谷山などと細かく撮りたくなる。
 ビールの栓を抜き、「乾杯!」「剱に乾杯!」「大猫に乾杯!」などと言っては、独りではしゃいでいた。でも、はしゃぐ間もなく、「ワッ」「ワッー」と言いながら剱岳に酔いしれていた。
頂上から鹿島槍ヶ岳を望む

 初夏や盛夏の時のようにお花はないが、この眺望は、お花がなくとも、それ以上の光景である。もう少し ビールが欲しかったと思いながら、第1回目に行ったように、笹の中を北東へ足を延ばした。時折ヤブとなり、足をとられたり、靴紐が外れたりし難儀この上ない。目印のテープが7ヶ所ほどあるがわからなくなる。
 前回と同じように本当の頂上と思える所から先は、ヤブを一寸下ってまた登り、その後幾つかのピークを登れば、ブナクラの鞍部に行けるのではないかと思った。

「越中の百山」の2,055㍍や「とやま山紀行」の2、070㍍の表示を、私の持参した高度計は、とっくにそれを上回っているのである。「頂上のような所」「本当の頂上と思える所」など自分勝手の名を付けているが、後日、このルートを作った「ブナクラ修復グループ」の辰口氏に尋ねてみると、三角点は、あなたの思っている所よりも、左のヤブの中にあるとの事だった。
来年咲くであろうと思えるハクサンコザクラや、チングルマを踏まないように、歩いたこの風衝草原は、飽きる事が無く、「あーっ」と言う間に時間が過ぎていってしまった。
 また、下山時も登山口に着く寸前まで、剱岳を仰ぎ見る事が出来とてもラッキーだった。




   ★★★コースタイム★★★

高岡4:10=登山口(5:40~55)=1400㍍(6:57~7:04)=1500㍍(7:28~35)=大猫平(9:10~36)=大猫山頂上(10:30~13:00)=大猫平(13:37~52)=1500㍍(14:40~50)=1400㍍(15:10~15)=登山口(15:55~16:05)=高岡

       ☆単独行

∞∞参 考 記 録∞∞



7月23日(月)  高岡4:25=登山口(5:50~6:20)=1400㍍のピーク7:15=1500㍍のピーク7:40=大猫平(8:48~58)=頂上草原を行く=9:55退却10:35=頂上付近.昼食.昼寝(10:40~12:15)=大猫平(13:17~50)=1400㍍14:26=登山口(15:10~26)=高岡17:05


8月19日(日)  高岡3:30=登山口(4:50~5:10)=1400㍍のピーク(6:03~08)=1500㍍のピーク(6:28~30)=大猫平(7:17~32)=大猫山頂上(8:15~10:10)=大猫平(10:38~45)=1500㍍のピーク(11:33~45)=登山口(12:40~55)=高岡


9月15日(日)  高岡8:57=登山口(10:20~35)=1400㍍のピーク(11:25~35)=1500㍍のピーク(11:55~12:00)=大猫平(12:50~11:10)=大猫山頂上(13:50~14:45)=大猫平(15:15~20)=1500㍍のピーク(14:05~10)=1400㍍のピーク(16:30~35)=登山口(17:15~40)=高岡18:55