元  ち  ゃ  ん  の  山  紀  行
大 日 岳 (2,501㍍)
<富山県上市町、立山町>平成12年07月16日



<キヌガサソウ><シラネアオイ><ニッコウキスゲ><コバイケソウ>
<カラマツソウ><チングルマ><イワイチョウ><ムラサキヤシオ?>


 家内がN女史とその友人達とで長野の飯綱山に出掛けると言うので早朝に魚津まで送った。
<大日平山荘で>
 帰宅後、母の面倒を見ている内に、天気予報と異なってだんだんお天気が良くなってくる。
 こうなると、もうダメでひとりでに車のハンドルを握っていた。時間的には、牛岳、小佐波御前山当たりがいいのだが、もしかしたらと思いアイゼンだけは簡単な荷の中に入れ、思いきって称名に向かった。
 さすが日曜日とあって第一、第二駐車場はかなり埋め尽くされていた。称名滝に向かう大勢の観光客中に足早な中年男が一人、異様に見えたかもしれない。

 駐車場から大日岳登山口までは、きれいなアスファルト道を10分。でも10分と思うかもしれないが、勾配もあり結構きついのである。その登山口で記念写真を撮っている若いカップルに申し訳なさそうに、段差を乗り越えてクサヤブの中の細い道に入る。
<もう少しで大日小屋>
 クサヤブと言っても綺麗に刈ってあり、快適に登れる。称名滝やハンノキ滝を見ながら、また多くの治水ダムを見ながら「川ではない、滝だ!」と言った外国の治水学者の言葉を思い出した。
 つづら折りの道を30分ほど過ぎると休憩に適している「猿ヶ馬場」に出る。かまわずその先を急ぐと10分あまりで「牛首」に出る。
 ここは、称名から1.67キロ、大日平まで1.75キロの地点だ。ザクロ谷と称名滝の水音を聞きながら、痩せた尾根をロープや梯子を頼りに進む。笹がはびこっているところなれど、ここも手入れが施されていて何の問題もない。そうしている内に、木道にでる。樹木が低くなって見晴らしが良くなってくる。
 本来なら、雨が降ったら酷いぬかるみになる深い溝なのだが、何年か前にネパールから技術を取得に来ていた若者達の労働で、歩きやすくなった。
<大日平を見下ろす>
 でも自然の力とは凄いもので、その木道が傾いていたのも数多くあった。また歩きやすさとなると、足の上がらない中高年には滑り止めにつま先が引っかかるようだ。10分ほど歩くと500㍍進んだ標識がある。なおも5~6分歩くと大日平山荘が見えてくる。また称名峡谷を挟んで雄大な弥陀ヶ原草原や天狗山が見える。
 黙々と草原の木道を歩き続けると、何年前に建て直されたのか小奇麗な大日平山荘に着いた。3グループ程の人達が小屋の人に大日小屋から奥大日岳への稜線の残雪の状態を聞いていた。

 雪解けの後に、可憐なチングルマが咲き誇りその先に小さな雪渓が残っていた。木道を覆った雪渓には赤いスプレーの名残があった。大日平山荘から20分程のところに、「水場近し」の標識があり、その5分程先には、勢いよく流れる沢があった。
<頂上への稜線の残雪>
 休息らしい休息も取っていない今日の行程には、絶好の休息地だったが、
 しかし、身体を休めようと腰を落そうとした瞬間、左足のふくらはぎが攣った。その左足をカバーしている間に今度は右足も攣ってしまった。2時間も休憩せず、水も飲まないこのやり方は、年をくってきた私達にはもうダメなのかもしれない。精神力でなく生理的に水分補給をしないと、身体が続かなくなってきているのだと思う。  でもここでやめてしまうわけにいかない。ふくらはぎだけであったケイレンが大腿四頭筋にまで上がったきていたが、ここは長年の経験を生かし、つま先ではなく踵に重心をおきながら登り続けた。規則正しい歩調なら違和感を感ぜず、何時の間にか和らいで行くのである。でも足を踏み外したり、足を伸ばし過ぎたりするとそれ以上に苦しくなる。

 眼下に幾つかの大きな雪渓とマッチ箱のように見える大日平山荘が雄大な大日平、弥陀ヶ原草原にコントラストに写る。沢を5~6回渡りジグザグの山道沿いには、大きなキヌガサソウが群落を成していた。数は多くないが、ニッコウキスゲ(ゼンテイカ)、コバイケソウ、シラネアオイが目を楽しませてくれた。
 上からドンドン下りて来る登山者と挨拶を交わしながら森林限界に達してからは、大日岳を回り込むような感じで、谷を右手に見ながら、トラバースするのだが、歯を食いしばりながらの登行にはとても長く感じてならなかった。
<大日岳頂上で>
 大日岳と大日小屋の鞍部にあと20~30㍍のところでとうとう足が前に出なくなってしまった。茫然と5分程立ち止まってしまった。でも思い直して頂上に向かった。  何故か稜線に出てから足が軽やかになった。
 3月5日の雪庇崩落事故のあった大日岳頂上への稜線の北側には大量の残雪があり、愛らしい雷鳥も出迎えてくれたのだが、おのずと、大きく裂けた残雪に目がいってしまう。立山、奥大日岳まで見えるのだが、また剱御前岳まで時折見えるのだが、剱岳本峰はガスに覆われてその姿を見せない。

 日帰り山行としては、あまり自慢の出来ない午後2時35分頂上到達なのだが、しかし、剱岳の展望台を一人占め出来た。雲海の中に、今春登り詰めた早乙女岳への稜線が浮かび上がり、やや右前方には、毛勝三山の頭だけが雲上にあった。本峰が顔を出すまでゆっくり冷えたビールを味わっている間に、足の痛さも忘れてしまっていた。いま少し、いま少しとカメラを構えていたのだが、3時半近くのタイムリミットまでとうとう私の希望をかなえてはくれなかった。「また来ればいいさ。」…………。
 足の事を考えたなら急がなければいけない。でも、もう足にナンの違和感もなかった。時折さーっとガスが周りを通り過ぎて行く間から、大日平の草原が開けて見える感じが実にいい。また登る時に見た高山植物が異質に見えてくるのだから不思議なものである。大日平山荘が見えてから結構時間を費やしたが頂上から1時間半で小屋に着いた。誰もいない小屋の前で、前途の下りを考え一息入れた。称名道路閉鎖まで、あと2時間。
 ベンチに腰掛けながら、ガスに包まれている大日岳頂上方面を眺めていると、小屋の中から秋吉久美子に似た若い女性が「お茶にしませんか?」と声を掛けてくれた。「もう時間がないから、いいです。」と言うと「上から下りてきた来たの!」「日帰りで、12時頃ここを通ったよ!」・・・・・・・・・などなど
 「小屋のHP」の事などの話になったが、突然その時「携帯」が鳴った。飯綱山の帰路で名立谷浜からの家内の電話ではないか!


 「今何処!」
 「大日平・・・・」
 「大日には行かないといったくせに!」
 「お天気がよくなったから!」
 「1時間半程で魚津に着くから、迎えに来て!」
 「え-っ・・・・」


  電話の間にお茶を入れに行くと言って、中に入って行ったステキなおねえさんに「もう行くからゴメン」と両手を合わせ、木道を急いだ。
 若い頃とは違い急いでも下りの時間は稼げない。でも1時間程でアスファルト道路に出た。
 藤橋を左に見ながら、スノーシェードの中でまた携帯が鳴り、富山駅で待ち合わせることにした。
 家に帰って、お茶を頂けばよかったと後悔しきり!でも幻だったのか!



    ◇ コースタイム ◇

高岡8:50→称名駐車場(10:18~27)→登山口10:37→猿ヶ馬場11:07→牛首(11:20~23)→木道に出る11:33→大日平山荘が見える11:49→大日平山荘(11:58~12:07)→水場近しの標識12:37→水場(12:42~53)→大日岳鞍部(14:15~20)→大日岳頂上(14:35~15:20)→鞍部15:25→最後の水場15:56→第一の水場16:16→大日平山荘(16:53~17:05)→牛首17:30→猿ヶ馬場17:40→登山口18:08称名駐車場→(18:15~20)富山駅→富山大学→高岡20:25