元  ち  ゃ  ん  の  山  紀  行
臼 越 山 (1,421.1㍍)
<富山県立山町、上市町>
平成14年04月15日




 前日に決めた「臼越山」行きだったが、「山ノ神」が、登山口に近づく立山公園線の藤橋付近で、私の地形図からの予想と、昨日無理矢理見せたガイドブックの印象から弱気になってしまった。怖さと途中撤退となった場合の申し訳なさを感じたものらしいく、また、「越中の百山」を意識している私の山行に対しての思いやりだったのかもしれない。
 クムジュン横の人津谷出合の林道は、しっかりと施錠されていた。行かないと言う「山ノ神」のために、コンロ、ガスなどの炊事用具を外し、ビールも一本だけにして、荷を軽く少しでも早く下山するつもりの身支度をしていると、その「山ノ神」は、少し歩きたい思いと、人津谷がどんな所か見てみたい思いから、途中まで同行すると言う。
人津谷支谷から鍬崎山を望む

 この谷を突き上げれば、文部省登山研修所の前進基地があると言う人津谷は、多くの砂防ダムがあるが、意外と明るく、右岸にある林道に雪を留めながらも、かなりの速さで雪解けが進んでいた。雪解け後の整備が施されていない林道は何処も同じで、根からもぎ取られた倒木や、大小の岩が散乱していたが、デブリもなく、左程キョロキョロ注意をしなくても歩ける林道である。2ヵ所の沢を左に見ながら30~40分程で、水門のある取水口の反対方向に延びる林道を辿って行くと、流れと遠ざかり、何処が林道か分からないまま支谷の出合となる。
人津谷支谷の雪渓を見下ろす

 杉などの樹木に見通しを遮られ、雪に覆われこの場所は、おおよそ谷とは思えないが、地図上の砂防ダムの多いこの支谷前方のコルだけが、樹木越に僅かに見える。ここで「山ノ神」と別れるが、車デボ地点で、コーヒーを飲みながら、読書でもしているつもりなのかと思ったら、車に乗って、猿倉のカタクリを見、時間があれば、御前山を散策したい言い、午後1時に先程のデボ地点で待ち合わせる事にした。
 ファージーな谷だが、北に進むと雪の下から流れが聞こえ、谷も次第に狭くなってくる。今日は、朝方から気温が高く、常願寺川で17℃、立山公園線で22℃と温度表示板を見て来たように、フェーン現象のためだろうが、雪の上を歩いていても熱風となって異様な感じであった。
臼越山頂から「大日岳」

 幾つもの小さな砂防ダムのある谷の雪が残る左岸を、煩い木の枝やツルを払いのけながら、高度を上げて行くと、やがて、谷が深くなり、谷を覆った雪渓の上しか行く所がなくなるが、その雪渓も雪解けと共に、中を抉られてしまい、自分の重さに耐え切れるかなどと考えなければならず、それを避けるとなると、藪の中に突入しなければならない。三脚やピッケルが絡まり余計な労力を消耗するのもその時である。
 いよいよ砂防ダムを巻く事が出来なくなる所では、雪渓の切れた所の流れに足を入れ、また恐る恐る落ちかけた雪の上を、足早に駆け抜けた。折からの高温と熱風に、急斜面の雪の付き方が悪く、ピッケルよりも笹や、小枝につかまりながらの登行となった。コルに続くと思われる斜面は、崩落が予想され、少し山頂よりの稜線に向かって斜面を喘ぎ喘ぎ登った。

穏やかな臼越山頂で

 やっとの事で稜線に出た。コルから少し頂上よりに出て、快適な尾根歩きを期待していたが、もう既に雪解けが始まっており、登って来た南側は、もう雪がなく、尾根筋も溶けかかっている。雪上を歩くとなると、急斜面を左に見た北側斜面を、トラバースするようにしなければならず、それでも、雪の付いていない所を避けると、その分だけ、急斜面を登り返さなければならず、ピッケルを握る手にも緊張が走る。
大辻山(臼越山頂付近から)

 しかし、そんな所も暫くで、やがて緩やかに、そして広くなって快適な尾根歩きに変わってくる。コル付近で見た後ろのピークは、大辻山に似た山容をしていたが、次第に高度を上げると、今冬登った「肉蔵山」からの尾根と、大辻山からの尾根が合流するピークである事がわかり、肉蔵山から、この臼越山に来れないかと思っていたのだが、“これは遠いぞ!” と改めて思ってしまった。その肉蔵山のピークは、こんな表現では、顰蹙を買うかもしれないが、オッパイの形をした双耳峰で、光線の関係からか蒼く奇麗な形をしていたが、千石川源流の黒村谷も、深く切れていて、奥深い山を更に印象付けた。
肉蔵山(臼越山への稜線から)

 東に足を運ぶに連れて、今歩いている尾根が、左から(北から)延びている尾根と合流する所が、頂上だと地形図を見なくても分かり、少し杉もあるが、ブナの間を抜ければ臼越山頂上である。
 まず目に飛び込んで来たのが、横に広く雄大に見える「大日岳」は、曇りがちの天候だからかも知れないが、墨絵のように感じる。三脚を立て、レンズを取り替えた。ビールも雪の中に冷やした。自分の思いより早く山頂に辿り着く事が出来、薄っすらとだが「剱岳」も確認出来た。後は、青空が広がり、剱岳を撮るだけである。一年間暖めていた山だけに感慨一入であると共に、大日岳から早乙女岳への目線が、何時の間にか次の目標である「前大日岳」へと移り、この人津谷に入った事と臼越山頂から眺めた事によって、身近なものとなったような気がしてならなかった。
大熊山(臼越山頂から)

 ときめいた心が落ち着いた頃、おにぎりを“つまみ”に、未だ冷え切っていないビールを乾いた喉に流し込んだ。「山ノ神」と別行動を取る時に、荷を軽くする為、一式の食材と炊事用具を車に置いて来て、私のザックの中には、2個のおにぎり、パン、2本の缶ビールしかなかった。でも、そんな事などどうでもいい事で、薄ぼんやりの景色でも、私には、格好の“つまみ”なのである。大日岳の右には、薄く弥陀ヶ原の平原が見えるが、その右後ろの「薬師岳」は、残念ながら、山容を見せてくれない。尚も右に首を振ると鍬崎山が聳えている。一方大日岳の左奥には、お目当ての剱岳が、早乙女岳から大熊山へぐーっと左に目を移すと、ぼんやりと毛勝の山々がある。180度旋回して、先程登って来た所には、細いブナの間から「大辻山」が印象的だった。
 東西に長い山頂を、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしている間に、あっという間に1時間半の時が過ぎてしまった。もう少しもう少しと、空を見上げ続けたが、自分の思いの反対方向ばかりに、青空が広がって行くばかりで、“また来ればいいさ!” と思いながら、「山ノ神」との約束時間を気にしながら、小走りで尾根を下った。
弥陀ヶ原の平原(臼越山頂から)

 コル手前の駆け上がって来た斜面に、下りの目印の赤テープを付けて来たので、回収しようと思っても見当たらず、周り中を捜したら、何と私の背丈の2倍以上の高さの所にあるのは、倒れていた樹木が雪解けのために跳ね上ったらしい。支谷の名残り雪の上を快適に駆け降りたと思ったら、薄くなった雪の下から、笹が顔を出していて、つるりと転んでしまった。問題は、上部三ヶ所の砂防ダムの付近で、一度は流れの中に、足を入れたり、肝心の所で片方の足が、雪を踏み抜いてしまいヒヤリとした事もあったが、その後は、少し煩い木々を払いのけ、往路に使った谷の右岸を、確実に見極めて出合に出た。
 朝方より木々の緑が、鮮やかに目に映った林道を、午後1時の約束に間に合わせるように下ったのだが、車デボ地点の約束の場所には、「山ノ神」、車の姿は見えず、立山駅に向かって歩く羽目になってしまった。




★★★ コースタイム ★★★
高岡5:15=人津谷出合(6:25~45)=支谷出合(7:30~50)=稜線9:20=臼越山頂上(10:00~11:30)=コル付近11:40=支谷出合12:25=クムジュン前13:00=藤橋13:30

       ☆★☆単独行