No.17 (H.19.4.26)



   行かないと思っていたのだが、僧ヶ岳・三倉山に一応誘ってみた。
   「東又の急登は、1年に1回でよいから、あんただけ行って来られ 
   ・・・」 が、返事である。

   ここからが可笑しい。「パジェロ・イオを置いていけ。
   あんたはミニカでいい。」
   山路を、車高の低い軽四で、
   通常の道を走るのに、四駆となる構図である。

   最も、イオには、車両や傷害など手厚い保険が掛けられており、
   危険率からして、その方が安心であろうと「山ノ神」の言い分である。


   小さなおにぎりを3ヶ頼んだ。あまり食べないのだが、
   非常食を兼ねている。ゆで卵と前日の残りものの「鶏の唐揚げ」
   を付けてくれた。それに、コーヒーである。

   自分の用意したカップ麺2ヶと、朝方立ち寄って買った菓子パン2ヶ、
   水は、カップ麺とコーヒー用を含め1.5L、全食料である。
   そして、「山ノ神」がいないから、アルコール類は担がなくても
   よいのである。


   食料の事も、車の事も、まあまあ我慢が出来るのであるが、
   「逐一報告せよ!」 には、些か不満がある。

   独り歩きが心配なのか、私の挙動そのものが不審なのか分からないが、
   今回は、ガソリン代もくれなかった。辛うじて菓子パンが買えたくらい
   である。

   24時間・365日そして、休日までも殆ど一緒なのに、
   あの疑いの目は怖い。 「あんたは、コンロとコッフェルをもって
   おれば、 ”喫茶店の代わりになる。”」が、「山ノ神」の口癖である。

   黒い顔にシワがより、髪の毛がない。山には入れば、一光が差すが、
   下界では、「唯のおっさん」 である。

   既に、翼を折られているが、一年に何度か、伸び伸びと山中を歩きたい。
   以前の口癖であった 「翼を下さい。」 「翼を返して下さい。」 と、
   「山ノ神」に言いたいのであるが、また沈黙の日が続くと思うと
   言い出せない。


   今度の山行にも、付録が付いていた。
   山行帰りに、「ボヤボヤしないで、山菜がないか見て来られ!」 
   である。すなわち、何か探して来いと言う事である。

   ちょっと弱った足を気にしながら、登山口に戻ってきたのが、
   午後5時であった。それから、40~50分程、林道を歩かなければ
   ならない。すぐ、河原に降りたが、コゴミが顔を出したところで、
   可愛そうで採れなかった。

   2週間前、林道に出ていたフキノトウをイヤというくらいに採って
   しまったが、今日も少しであるが、雪解け跡から採れたのであった。
   「あ~、これで、叱られなくて良い。」

   しばらく下ると、ちょうど良いくらいのコゴミをたくさん目にした。
   夢中になって採り始めたが、こんなに食べられるわけもないしと、
   途中で放棄し、車へと急いだ。


   魚津IC付近で、「もう少しで8号線に出る。」 のメールを、
   心配しているかと思った「山ノ神」」に送ったのに、
   しばらくして、「私は、30分程、後を走っています。」
   との、わけの分からない返事が来た。

   また何処か、得意の遠出ではと思い、さほど気にしていなかったが、
   自宅に戻って、1時間経っても、1時間半経っても、
   「山ノ神」は帰って来なかった。

   「ちょっと、用事を思い出して・・・」 なのであったそうだが、
   ”今日は、何処へ行って来たとか、何処へ寄ったか?” を尋ねない事に
   「山ノ神」は、不満であるらしい。


   「山ノ神」が、何処へ行って来たのか、まだ私は知らない。
   知らなくても良いと思っている。